<海外在住の中国人文革研究者としての使命>

 楊 麗君

 かなり以前から、私は大平正芳記念賞にある種の「憧れ」を感じていました。と申しますのも、日中 関係の発展に重要な貢献をされました故大平総理は私の尊敬する人物で、貴財団の受賞作の中で私の研 究に示唆を与えた著書が多数あるからです。したがいまして、この大変名誉ある賞を拙著に賜りました ことは、私にとって至上の喜びです。しかしながら、受賞につきましては、まったくの予想外のことで したので、私はとても驚きました。自分の作品がそれだけの価値があるのか、いまなお自信をもてずに おりますが、受賞の機会を与えてくださった大平正芳記念財団、拙著を受賞作品として推薦してくださった 先生方および選考委員の先生方には、大変感謝しております。また、この場を借りて、出版元の御茶の水書房、そして本書を執筆する過程でご指導いただいた諸先生方や様々な刺激を与えてくださった方々 に心よりお礼申し上げます。
 大学院修士課程に進学して以降、私が本格的に文化大革命研究を開始してから今日に至るまでほぼ十年近くが経ちました。脱イデオロギー的研究態度で、文化大革命を理論的に解釈し、文化大革命という 大きな歴史的事件を通して現代中国の政治社会を構造的に分析することが、私の当初からの試みでした。文化大革命期に全国で展開された派閥闘争と集団的暴力行為を当時中国の特定の政治制度環境の中でとらえ、政治制度がいかに行為者の行動特徴を構築するかという点を中心に論じた本書に、いまこうして高い評価をいただけたということで、自分のこれまでの努力は決して無駄ではなかったと感じています。文化大革命は中国現代史において重要な出来事であるにもかかわらず、政治的な制約のために、中国国内の研究者はいまでも自由な視点で文化大革命を論じられないのです。こうしたことを考えますと、名誉あるこの賞を賜りましたことは、私個人の研究成果が認められたという喜びはもちろんのことながら、海外にいる中国の文革研究者として与えられた使命を少しでも果たすことができたということでもあると感じております。
 今後になりますが、受賞を励みに一層研究に邁進してゆきたいと考えております。