市場をよりよく機能させる開発政策の実現へ

 澤田康幸
 園部哲史



 輝かしい歴史を持つ大平正芳記念賞を賜り、誠に有り難く光栄に存じます。大平正芳記念賞運営委員会、選定委員会の諸先生方、ならびに財団関係者の皆様に心より御礼申し上げます。
 市場経済とは取引で成り立っている世の中のことですが、取引はインチキやゴマカシ、裏切りと常に隣り合わせです。それはわが国でもさまざまな偽装問題が生じていることからも明らかで、途上国はなおさら酷い状況にあります。それにも関わらず、市場経済は途上国でもそれなりに成り立っています。それは何故かという問いに答えるべく、開発経済学者12名と日本経済史家6名が集まりました。
 それぞれの地道な研究を集成してみると、さまざまなことが明らかになりました。まず、「市場の失敗」を克服するために農民、商人、企業家が、家族の絆、血縁、地縁、仲間意識、民族の紐帯、共同体ルール等、広い意味での「制度」を用いて、円滑な取引の成立に貢献している姿がはっきりと浮かび上がりました。その姿は、戦前日本でも、台湾・中国・フィリピン・インドネシア・インドなど現代のアジア諸国でもまったく同じです。さらにはアフリカでもよく似ています。つまり取引を成就させるための民間の工夫や努力が積み重なって草の根的な制度となり、それが市場経済を支えるというのは普遍的な事なのです。
 しかし民間の力だけでは克服しがたい市場の失敗があります。そこで本書は、政府や国際機関やNGOが経済発展のために果たすべき役割も検討しました。農民や商人や企業の努力を支援する輸送・通信インフラへの投資、農民への情報サービスの提供、経営者の能力アップによる産業集積の支援が重要です。これらは常識的ではありますが、常識のない政府も少なくないので、証拠を固めることは重要なのです。今後の課題は、研究者と開発援助政策の担当者との有機的な対話を促し、市場をよりよく機能させる開発政策を実現することであろうと考えています。