乗松 優
 このたびは、大平正芳記念賞を賜り、大変光栄に存じます。数多く寄せられた珠玉の作品から、本作の意義を見出してくださり、感謝の念に堪えません。貴財団並びに理事会の皆さま、運営・選定委員の先生方に心よりお礼申し上げます。贈呈式があった6月12日は、故・大平正芳元首相のご命日であり、フィリピンの独立記念日でした。1952年の東洋選手権から優に半世紀以上が経っているにもかかわらず、戦後のスポーツ交流がこのような形で再び注目されることに不思議な縁を感じます。
 『ボクシングと大東亜一東洋選手権と戦後アジア外交』は、戦争によって徹底的に破壊された日本―フィリピン間の正常な関係をボクサーたちが裸一貫で回復する物語です。この作品について、来賓者の皆さまから身に余るほどのお褒めの言葉を頂きました。しかし、私は多くのボクシング関係者の理解と協力を得て、彼ら/彼女らが語る言葉に耳を傾けたに過ぎません。本作は、私の力だけで書き上げたものではありません。今回の受賞は、ボクシングを通して日比両国の関係改善に陰ながら尽力した全ての人間の生が学術的にその価値を認められたものです。
 アジア諸国間で政治的な緊張が高まる昨今、私たちはこれまで以上に国内外の<隣人>について理解する必要があります。ボクシング東洋選手権は、外交が膠着状態の中でも、対話のドアは常に開かれていることを示しました。私たちが、競技の枠組みだけでスポーツを捉えようとする固定観念から解放されれば、スポーツはこれまで看過されてきた多くの歴史的事実や解釈をもたらしてくれるでしょう。私は、それこそがスポーツの公益性であると考えます。私のささやかな取り組みが、新たな学問的アプローチの可能性を開くと共に、国際理解の一助となることを心より願います。